中学校の内申について(1)
現在、首都圏では多くの小学生が国・私立中学校を目指し、 中学受験を選択している。理由の一つに、公立中学校への進学を避けたいというものがある。公立中学校が忌避される原因は様々であろうが、その一つに高校受験における内申に対する不満があることは、間違いないだろうと思われる。このページは、子供の受験にあたり東京都の中学校における内申の状況について調査・検討を行った結果について述べている。
- 現状の理解
東京都に限らず、内申を高校受験で用いている自治体は多い。そして、それに対する不満も共通している。曰く、
- ~市では、内申がとても取りにくい。
- ~小学校では、内申が取りにくい。
- 先生のお気に入りの生徒は内申が良い。
- 主要5科目と実技4科目のバランスがおかしい。
などなど、枚挙にいとまがないが、本稿では、主に自治体間の不公平さの問題について検討する。
ご存じの通り、内申の評価方法は、相対評価(集団に準拠した評価)から絶対評価(目標に準拠した評価)に変更された。相対評価は、学校単位での学習達成度の高低に直接的に影響を受けるという意味で、本質的に不公平なものである。一方、絶対評価は主観評価による曖昧さにより、やはり不公平である印象をぬぐい切れない。
適切に内申が作成されているかどうかは、教育委員会等も強い関心を持っており、多くの自治体で実態調査が行われているようである。東京都でも、「公立中第3学年・義務教育校第9学年 評定状況」に関する調査を行っている。この調査は、「評定の客観性・信頼性の確保に役立てる」ことを目的にしており、令和3年の調査では「全体としてはおおむね適正に実施され、客観性・信頼性は確保されていると判断できる」と結論づけている。
この調査結果の別添資料として、「中学校等別評定割合(個表)」なるものが公開されている。内容は、都内各自治体の学校毎に1~5の評定を与えた割合を調査した結果である。学校名は開示されておらず、自治体毎に通し番号が与えられている。非常に興味深いデータであり、ググれば様々な考察がヒットするので、御覧頂くと良いと思う。ちなみに、千葉県でも同種の資料が公開されているが、こちらは学校名が開示されており、かなりエグいことになっている。
まず、生データを眺めた時点で、かなり驚かされる。例えば、国語の評定が5である割合を見ると、最も少ない学校は1.9%、最も多い学校は36.8%である。見た瞬間、正直、エッと思った。絶対評価なので、理屈上はあり得るものの、「客観性・信頼性は確保されている」という結論をそのまま受け入れて良いのか迷うレベルである。
東京都以外でも事情は変わらないのだと思うが、さすがに、そのままではまずいと思うのか、何らかの補正を行っている都道府県もある。代表的なのは、各学校の評定の平均に基づいて補正を行うという方法のようだが、これは評定を相対評価化するものであり、ちょっと何をやっているか分からない、という感じである。私が知っている範囲で最もラディカルなのは大阪府である。大阪府では、「中学生チャレンジテスト」と呼ばれる統一テストを実施しており、これを用いて評定の公平性を担保しようとしている。チャレンジテストの得点によって、つけても良い評定の範囲が定められており、恣意的な評価を排除するということのようである。例えば、97点以上の生徒には、5以外つけてはいけない、のように。ただ、制度の詳細についての説明が見つからず、全体を正しく理解できているかどうか分からない。例えば、「チャレンジテスト」について説明する塾等のWebページでは、「チャレンジテスト」の平均点が低い学校では5を少ししかつけられない、のような記載がある。これが、上記の評定の範囲の結果としてそうなるのか、それに加えて学校全体での平均点で学校の裁量に制約が掛かるのか、が府の正式な資料が見つからなかった。テストの結果とかはまとめて公開されているのだが、もっと、「理念」とか「目的」とか、そういう説明が普通はある気がする。
理解不足なので、断定は避けるが、(個人的には)原理的には、すごく分かる。でも、ちょっとやり過ぎかな、と思わないでもない。なんとなくだけど。細かい運用面を適切に詰めて行かないと色々問題が起きそうだし、その一方で、子供を毎年実験台にして、制度を少しずつ変えていくというのも問題がありそうだし。
ただ、入試に直接使うのは賛成できないにしても、現状の問題点を把握するために、こういう統一テストは役に立つ。もし、東京都全体での統一されたテストがあればそれを起点に現状を把握することは重要だと思う。
長くなったので続く。